東京モッシュ~TAIMAN~
どこにいっても人。
そんな人混みをまるで周りに誰もいないかの様に、
自分のペースを乱さずに歩くことが出来るようになるともう立派な東京人であろう。
東京人になればもれなく自然に第三の目で間合いを図る事が出来る様になる。
四方八方から行き交う人をほんの少しの動きで交わし目的地を目指す。
毎日の事だ。
忍者の修行で小さい苗を毎日跳び越え、育った苗は大きな木となり、いつの間にか高い木をも跳び越えるようになると言うアレと同じ理屈である。
しかしそんな東京人であっても、
特に女性は間合いを図ることが苦手だったりする。
たまに間合いの計算ミスというのだろうか。
ギリギリに人をかわすが故、ひとたびタイミングを外してしまえば、
相手の急所に肩や肘などがクリーンヒットしてしまうということもある。
つまり、当たり当たられの街といっても過言ではない(そんなことはない)。
自ら攻めて行かないと前に進めないのだ。
その日もいつもの様に人をすり抜けて歩いていた。
すると向かいからカツカツとヒールを鳴らし
いかにも自己主張の強そうな20代ワンレングスの女が
若干アゴを上げながら近づいてきた。
どちらかが譲って避けなければぶつかる道幅。
いつもは無意識でスッと交わす体勢をとるだろう。
しかしその時はいつもと違った。
これは誰でも遺伝子に組み込まれているものなのだろうか。
ただただ魔がさしたと言ったほうが良いのか。
動物的勘、女の本能が働いたというべきか。
私の中の何かを掻き立てられたのは確かだ。
細胞が、血がこう言っている。
この女には負けられない、
真っ向から勝負しろ、と。
確実にその瞬間いつもの自分ではなかった様に思う。
恐らくこのまま前に進めば
確実に肩パン状態に陥るだろう。
しかし、なんだか自らよけるというのは
色んな意味で負けを認める事になるのではないか。
敵のあのみなぎる自信はどこからきているのか。
若さなのか?
ここで私は「先によける」という白旗をかざすのか?
湧き上がる謎の思考。
近づくワンレン女子。
よける気はさらさら無いようだ。
こっちを見ながら当然よけるよね、と言っている様にも見える。
絶対私が避けるんだろうと思ってるな?
ふっ、お前中心に全てが回っている訳じゃねぇんだぜ
ますます負けられねぇ。
湧き上がる謎の決意。
そして
アレ?
ん?
よけないな・・
ガツンッッ
ぐっ・・・
お互いギリギリでちゃんと避けたのだが、
ここで女の性質がでてしまった。
お互いうまく間合いが取れなかったのだ。
2人ともスピードを緩めなかった。
気づいた時はもう遅い。
私の肩、ちゃんとついてるだろうか。
肩が爆発したかと思うほどの激しい衝撃。
お互いヨロリとし、
肩をジンジンさせながらも
「・・す・・み・せん・・」
「す・ま・・せん」
軽く会釈をし合い、すれ違った
痛かった。
ほんとにとても痛かった。
しかし何だかギリギリまで彼女の自分を曲げない気の強さ、
ギリギリまで避けないという強気の姿勢、若さ故の尖り方。
むしろ少し羨ましいとまで感じてしまったのだ。
湧き上がる謎のリスペクト。
そしてこう心で呟いた
「あんた、まあまあやるじゃん」
向こうもきっと
「あんたも、まあまあやるじゃん」
と思ってくれているのではないのか(いや、思ってないか)。
その時、タイマンで喧嘩しあった女番長達の姿が浮かんだ。
肩をさすりながら静かに、その場を離れた。
うーん。これがうわさのマウンティングと言われるやつか。
私にもそんなもんがあったのかと人間の本能にびっくりしつつも
大人として猛反省した。
もう2度と致しません。