出会いはスローモーション 〜知らぬが仏〜
あなたは人が生ゲンコ(グー)で殴られるのを目の前で見たことはあるだろうか。
とある電車のなかでの出来事である。
その日は電車の遅延のためで、車内はギュウギュウ。
金曜の夜なだけあって呑んでいる人もいるのであろう。
お酒の匂いもチラホラ感じていた。
ノロノロ運転に各駅で停まりながら運転していたため、
時計を見たりなどして若干イライラしだす乗客もいた。
ペケ山は、仕事帰りでボーッと音楽を聴きながら流れに身を任せていた。
しばらくすると充電が切れてしまったのだが、
イヤホンを外すのすら面倒だったので
そのままのスタイルで家路につこうと心に決めた。
すると、
だいぶお酒を呑んでいるだろうおじさんが
遅延のイラつきもあったのか
いきなり隣の眼鏡の青年の胸ぐらをつかんで
「うるせーんだよっっ!さっきからぁシャカシャカ、このヤロウ!!」
と叫んだ。
ペケ山はしっかりこの声が聞こえていた。
だって、エアiPodだったからね!
その会話から、音楽がイヤホンから漏れてうるさかったのかなと思った。
確かに、エアiPodのペケ山でさえも
シャカシャカ音漏れを何処かしら感じていた。
駅で停車していたため、揉み揉みになった二人はホームに出てしまった。
外に出たと思ったらおじさんはメガネ君になんと、
右ストレートをかました。
バキッ
その時だ。
メガネ君の眼鏡が宙をまったのだ・・・
こんなの漫画の中だけと思ったが、
実際に起こりうることなのだ。
なんだか眼鏡が空中を飛んでいく時間が長く感じた。
なぜか頭の中で
昼に会社のラジオで聴いた
中森明菜の「スローモーション」が流れていた・・・。
電車の中の人達は劇的な展開に
ただただその状況にポカーンとしていた。
でもペケ山は知っていた。
このシャカシャカ、メガネ君ではない。
私の前にいるこのイケメン兄ちゃんだ、と。
メガネ君はおじさんに
「ちげーよ!俺なんも聴いてない!イヤホンもしてねーだろーが!」
と言った。
おじさんはハッとし、我にかえったのか、
「本当だ。・・・・・・ごめん。」
と、謝った。
電車が出発するアナウンス。
メガネ君は眼鏡を拾い、ぷりぷりしながら電車に乗りんだ。
おじさんは申し訳なさそうに
「すみません」
と声にならない声でつぶやきながらホームに残った。
プシュー
ドアがしまった。
変な雰囲気のまま、ホームに残り、
申し訳なさそうに佇んでいるおっさんを
車内の人達は静かに見送ったw
おい、おっさん、どうしてくれる!この状況!!
この事件の現況である音漏れをしているイケメン兄ちゃんと、
実際にはエアiPodではあるがイヤホンをしているペケ山。
どっちが音漏れしてるかわからない状況にメガネ君。
きっとイケメンはこの状況何にもわかっていないのだ。
だって会話が聞こえないほど
大音量で音楽を聴いているのだから。
ちらっと顔を見たら
ふーん、なんか揉めたんだろうなっていう雰囲気。
ペケ山はというと、
小心者であるがゆえ、
今更イヤホン取るのもなんだし、タイミングを失っていた。
現状を理解しているので非常につらい。
メガネくん、絶対うちらどっちかのせいって思ってるやん!
てか、周りもそうおもってるやん!
早く駅につけ!ここから逃げ出したい!
しかしあと2駅・・・
心臓が飛び出るくらい
ドキドキが止まらなかった小心者のペケ山。
地獄の様な時間はまさにスローモーションで過ぎてゆくのだった・・・
生きた心地がしない5分間であった。
当事者2人を残してペケ山は逃げる様にホームに降りた。
その後2人はどうなったかわからない。
しかしあのメガネ君はきっと
イケメンには文句など何も言わない気がした。
知らぬが仏とはこのことだ。
と心から思ったのだった。